前立腺(YSミニ辞典)
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前立腺(the prostate)ぜんりつせん : 摂護腺。
男性性器の一部で、下腹部の奥の方にあり、
膀胱
(ぼうこう) の出口を包みこむような恰好をしているクルミぐらいの大きさの臓器で、
精嚢と一緒に
精液をつくる役目を果たしている。
精液の15〜20%を占め、
精子を保管し、卵子へ到達するための運動を助ける働きをしている。
前立腺の真ん中を通っているのが尿道で、後部尿道を輪状にとりまく栗の実大の腺である。
ミルク状で乳白色の一種特有の前立腺液を分泌し、精子に栄養を与えて運動を活発にする。
その出口は尿道に開いていて、この部分で、前立腺液は精子や精嚢の分泌物とまざり、精液となる。
栗の実を逆さにしたような形をしていて、重さは成人男性で15〜20g、
直径が4cm、縦の長さが3cmくらいである。
前立腺がん =
前立腺がん(がん関連へ別掲)
前立腺肥大症(Prostatic Hypertrophy) :
前立腺が病的に増大して、頻尿や排尿困難をきたした状態。
前立腺は男性の下腹部の奥の方にあり、膀胱のこの前立腺が、ある時を境に大きくなり始めるのが
「前立腺肥大症」である。前立腺は通常は栗の実大の大きさだが、肥大してくると鶏卵大まで
大きくなることもある。大きい人では、200g以上にもなる。
加齢によるホルモン環境の変化や交感神経の働きに左右され、年をとるにつれて、
前立腺はだんだん肥大していくために尿道が圧迫されて、尿が出にくくなるので、高齢者に多いが、
欧米では前立腺肥大症になる人の率が高く、その年代も20代近くまでも広がっている。
小便は膀胱に蓄えられ、その通り道である尿道を経てから外へ出る。
前立腺はちょうど膀胱の出口とそれに続く尿道の元の部分を中央に取り囲み、
全体の圧力でここを締めたり、緩めたりして小便を出したり、溜めておいたりするバルブの役目をしている。
正常な前立腺 前立腺肥大症
症状
尿がすぐ出ない、少ししか出ない、出始めてから時間がかかる、尿をした後もスッキリせず、
残っているような感じがする(残尿感)、トイレから戻ってすぐまた行きたくなり(頻尿)、
特に夜間に行く回数が多い(夜間頻尿)、股の間(会陰部)に圧迫感がある、
尿を我慢できずにもらしてしまう(尿失禁)などの
排尿障害がみられるようになる。
こうした状態を長い間放っておくと肥大が進み、膀胱に残る尿の量が増え、
感染や腎不全などの病気を引き起こすことがある。
治療 : 軽症の場合は排尿を含めた日常生活指導で排尿状態が改善することがある。
1.
薬物療法
@
α遮断薬 : α交感神経遮断薬は膀胱頚部および前立腺平滑筋を弛緩させ、
尿道抵抗を低下させることにより排尿障害を改善させる。副作用として、起立性低血圧、
めまいなどがあるが、膀胱、前立腺、尿道などある部位にだけ作用する薬剤は
副作用の頻度が低いため、よく診断して、部位を特定することに勤める。
症状が軽度で、前立腺の肥大があまり大きくない人には良く使われる。
A
抗男性ホルモン剤 : 男性ホルモンであるテストステロンの作用を遮断すると前立腺は萎縮し、
体積は減少する。その結果閉塞症状が改善し、尿閉を予防する。
副作用として性欲減退や
勃起障害がある。
B
漢方製剤、植物エキス製剤、アミノ酸製剤 : 前立腺の炎症をおさえて、むくみをとることにより
症状を改善する。副作用がほとんどなく、症状、肥大の軽い人には良く使われる。
代表的な薬に「八味地黄丸
(はちみじおうがん)」がある。疲れやすく四肢が冷え、
下半身の脱力感、しびれなどがある人を対象に用いる。口が渇き、とくに夜間頻尿が著しい人に
適している。この薬に含まれている沢瀉
(たくしゃ)、茯苓
(ぶくりょう)、附子
(ぶし)は、
水の出をよくする利水の働きがあ、駆お血剤の地黄
(じおう)、牡丹皮
(ぼたんぴ)も入っている。
慢性の前立腺肥大に良く用いられ、長期連用しても良いことから、老人病一般に広く用いられる
薬である。八味地黄丸の働きをさらに強めるために車前子
(しゃぜんし)、
牛膝
(ごしつ)を加えたのが「牛車腎気丸
(ごしゃじんきがん)」である。この薬は、
体力が低下し、腰部・下腹部の脱力感、冷え、痺れなどがあり、排尿異常とくに夜間頻尿、
浮腫などが見られる人を対象にする。八味地黄丸より症状が強い人に使う。
八味地黄丸に含まれている生薬から桂枝
(けいし)と附子
(ぶし)の二つを除いた
「六味丸
(ろくみがん)」は、冷え性では無いが尿量が減り夜間頻尿が見られる人に使う。
このほかにも「猪苓湯
(ちょれいとう)」「五淋散
(ごりんさん)」
「清心蓮子飲
(せいしんれんしいん)」「大黄牡丹皮湯
(だいおうぼたんぴとう)」も使う。
五淋散は、小便が近くて一回の量が少なく、尿が出るときに尿道が痛み尿が混濁するもの、
また血尿のでるものを目標とする。淋とは尿がすっきりでないことで、
古典には淋の種類を尿結石の「石淋」、神経性頻尿の「気淋」、膿尿の「膏淋」、
過労による排尿痛の「労淋」、血尿の「血淋」の五淋をあげている。
清心蓮子飲は、胃腸障害や神経過敏で体力が低下した人で排尿時に痛みがあり、
残尿の不快感を伴うときに使う。
大黄牡丹皮湯は、体力があり下腹部が緊張し便秘がちな人でお血を伴う場合の排尿困難、
尿意頻回、排尿痛などがあるときに良い。
C
併用療法 : 漢方製剤、植物エキス製剤、アミノ酸製剤やホルモン剤は、
アルファー交感神経遮断剤と一緒に使われることが良くある。
2.
手術治療
@
内視鏡手術 : 尿閉や出せない尿が腎臓にたまって起こる2次的な腎機能の低下、
重症度分類で中等症から重症の患者が手術治療の対象となる。下半身の麻酔をして、
尿道に内視鏡を挿入して、前立腺の肥大したところを電気メスで切除する手術で、
手術により腺腫を切り取るため、高い治療効果が得られる。
内視鏡を用いて腺腫を切除する経尿道的前立腺切除術(TURP)が標準的な手術方法である。
機械の進歩、ビデオの使用などで比較的安全な手術だが、
出血、感染、尿失禁などの合併症がある。
A
開腹手術 : 腺腫が巨大である場合は、開腹手術(開放性前立腺被膜下摘除術)が行われる。
開腹手術には副作用として射精障害がある。
B
レーザー療法、温熱療法 : 体に負担のよりかからない方法として広まりつつある。
3.
低侵襲(体への負担の少ない)
治療 : 医療用レーザーによる腺腫の切除や蒸散、
形状記憶合金ステントを尿道に留置し尿道内腔を拡張する治療、
前立腺周囲を高温にして前立腺腺腫の収縮をはかる温熱療法などが、
手術治療よりも侵襲が少ない治療として位置づけられているが、
有効性や長期に治療効果があるのかについては疑問が残る。
4.
尿道留置カテーテル : 急性尿閉に対しては、膀胱尿道にカテーテルを緊急処置として留置し、
尿を体外に誘導する必要がある。しかし尿道留置カテーテルは患者のQOLを著しく損ない、
また尿路感染を生じるために、あくまで応急処置の治療法といえる。
5.
鍼灸治療 : 前立腺肥大という病名は東洋医学にはないが、
症状からすると「白淫」、「尿精」などに相当する。その原因は普段からお酒を飲みすぎ、
脾胃の運化が失調し湿熱が体内に生じて気血の流れが悪くなったり、
過度のセックスなど、精気を傷付けて元気が虚衰したりして本病が起こると考えられている。
6.
ツボ療法 : 腹部の
中極(ちゅうきょく)・
大赫(だいかく)などを中心に各ツボを指圧する。
排尿機能の回復には水道
(すいどう)・曲骨
(きょくこつ)、
活力増進には肓愈
(こうゆ)・
関元(かんげん)が効果的である。
背中の肝愈
(かんゆ)、腰の
腎愈(じんゆ)・命門
(めいもん)・膀胱愈
(ぼうこうゆ)も
泌尿器と体全体の機能に効果があるので、ていねいに指圧を加える。
男性性器の機能改善には、腰の上・中・下りょうと次りょう
(じりょう)、足の蠡溝
(れいこう)・
太衝(たいしょう)などの各ツボを、指圧またはお灸で刺激すると効果的である。
参 :
PSA